世界にはおよそ330種を超えるインコやオウムがいると言われており、日本でも古くから鳥を飼う習慣があり、平安時代に記された「枕草子」や「源氏物語」などにはスズメのヒナを飼い育てる様子が記されています。
現在では、人懐っこくてコミュニケーション能力の高いセキセイインコやオカメインコなどの「コンパニオンバード」と呼ばれる海外原産の鳥たちが日本各地で生活しています。
そんな知性が高く愛らしいインコやオウムをこれからお迎えするという新米飼い主さんも大勢いらっしゃると思いますが、彼らをお迎えするにあたり、事前に知識を身に付け、餌として稗や粟などのシードを購入したという方も多いのではないでしょうか。
実はここ数年、インコの主食にシードを選択するのはいかがなものかという声が世界中で上がっていることをご存知でしたか。
今回はインコの主食に「シード」を選択することのメリット・デメリットや殻付きと殻無しについてご説明します。
インコやオウムの主食にシードを選択するメリットとデメリット
インコやオウムの主食に稗や粟などのシードを選択される新米飼い主さんも多いですが、なぜ今世界ではシードを主食とするのを反対している動きが出ているのでしょうか。
日本ではインコやオウムの主食としてシードを与えることが一般的となっています。
これは、日本で多く飼養されているインコやオウムが植物の種子を主食とする穀食性に属する鳥が広く飼養されていることが挙げられます。
特に明治20年代にやってきたセキセイインコは、日本では定番のコンパニオンバードとして様々な場所や地域で飼養されており、彼らは何万年も前から稗や粟、カナリーシードなどの種子を食べて生活してきた鳥であるため、誰かに教わることも無くいとも簡単に種子の殻を剥いて食べることができます。
ですが、これはあくまで穀食性に属するセキセイインコだから成せる業であり、蜜食性や果食性などに属する鳥たちは器用に種子の殻を剥くことはなかなか出来ません。
なので、「飼い鳥=シード」という誤った考え方はインコやオウムたちを不幸にしますので、まずはお迎えする予定のインコやオウムの食性について調べることから始めましょう。
さて、もしお迎えする予定のインコやオウムが穀食性の場合、主食にシードを与えるのは適切なのかどうかが問題となります。
シードを穀食性のインコに与えるメリットは、
- 何万年も前から食べているため、嘴の特性に合致している
- 自然食である
- 稗や粟、カナリーシード (カナリアシード)など選ぶ選択しが増える
- 種子の殻を剥く楽しみがあるためストレスが溜まりにくい
- 価格が安い
一方、シードのデメリットはと言いますと、
- 農薬や化学肥料などの汚染が心配
- 偏食の危険性が高く、脂肪分が高いため肥満になりやすい
- 栄養が偏るので不足しているビタミン類やアミノ酸などを副食として用意する必要がある
- 掃除や補給が面倒
シードを与える場合、特に注意しなければならないのが「たんぱく質不足」です。
野生の穀食性インコやオウムたちは、たんぱく質不足を解消するために昆虫や動物の死肉を食べることがあると言われています。
人間に飼養されているインコやオウムの場合、不足しているたんぱく質を補うためには飼い主であるあなたがたんぱく質を含む食べ物を与える必要があります。
もし、たんぱく質不足を起こしてしまうと、発育不全を引き起こし、嘴の形成阻害・羽毛疾患・産卵停止・免疫力の低下などの原因となりますので注意しましょう。
また、シード餌を販売しているメーカーによっては、高脂肪な種子を含んでいる場合もあります。
身体の大きなインコやオウムの場合、身体を維持するためにひまわりの種やトウモロコシ、麻の実などの高脂肪種子を与えることがありますが、もし小型・中型のインコやオウムが長期に渡って高脂肪種子を食べてしまった場合、脂肪過多で肥満の原因となる可能性があります。
シード餌をインコやオウムに与える予定の新米飼い主さんは、1度お迎えする鳥に詳しいショップの店員さんやブリーダー、信頼できる鳥専門の動物病院の獣医師さんにどのようなシードを与えると良いのかを訊ねるようにしましょう。
シードの殻付きと殻無しの違い
シード餌には「殻付き」と「殻無し」の2種類あることをご存知ですか。
よく「殻無しシードの方が掃除や補給がラクチンでオススメです」とショップの店員さんなどにオススメされることがあると思いますが、この言葉に騙されてはいけません。
殻無しシードは、殻付きに含まれている栄養成分の大半が失われてしまっているからです。
また、高脂肪種子の殻無しシードに至っては「死に餌」という異名が与えられており、加工されたことによって酸化が始まり、恐ろしい毒へと変化してしまいます。
こんな危険なものを大切なインコやオウムに与えるのは飼い主として失格ですので、どうしても殻無しシードを与えたいという方は、新鮮さを重視し、人間専用の食用シードを購入し、早めに使い切るようにしましょう。
では、殻付きシードならば安全なのかと言われるとそうでもありません。
確かに栄養価は殻無しシードと比べると高く、殻を剥くことでストレス発散や食の楽しみなどに繋がるためメリットが多そうに見えますが、インコやオウムが食べたあとに出る剥き殻が餌箱に残っていると「まだ餌が入っている」と勘違いしてしまう恐れがありますので、殻付きシードを与える際は、1日1回必ず餌箱を取り出して剥き殻が入っていないかどうかを確認しましょう。
ただ、「殻付きシードは身体に良い」「殻無しシードは病気になる」という認識は大変危険です。
例えば、病気を患っているインコに殻付きシードを与えてしまった場合、種子の殻を剥くことができず、食事が摂れずに死んでしまう場合があります。
そうならないよう、日頃からインコやオウムの健康管理をしっかり行い、状況に応じて殻無しシードを与えるのが飼い主さんの役目となりますので、必ずしも殻付きが良い、殻無しは危険というわけではありませんのでご注意ください。
一般的なシードの内容
現在日本で販売されているシード類は、オーストラリアやアメリカ、中国などの海外で製造されたものが多く、完全国内生産のシード類は価格も高く、なかなか手が出せません。
インコやオウムに与えるシード餌の大半が「混合餌」と呼ばれるものであり、稗・粟・黍・カナリーシードの4種類の穀物類が中心となっています。
では、稗・粟・黍・カナリーシードの特徴をご説明しましょう。
稗 (ひえ)
縄文時代に大陸からやってきた稗は、江戸時代になるまでたいへん貴重な穀物でした。
畑だけではなく田んぼでも栽培することができるため、お米が育ちにくい寒冷地域の貴重な食料のひとつとして重宝されていたそうです。
ちなみに、稗に含まれる3/4が炭水化物となっています。
粟 (あわ)
剥いた粟に卵黄をまぶしたものを「粟玉」と言います。
日本では古くから穀食性のインコやオウムのヒナの育雛食 (いくすうしょく)として用いられていましたが、最近では滅多に作られないそうです。
茎から外されていないものを粟穂と言い、五穀のひとつとして平時の鳥が健康で居られるための栄養補給食材として人気があります。
黍 (きび)
弥生時代のころに大陸から伝わった黍は、粟と比べると一回り大きく、脂質の含有量が稗や粟に比べて少ないのが特徴です。
淡白な味わいが楽しめる穀物であり、桃太郎に登場する「きび団子」の原料にも使用されています。
炭水化物の含有量は、稗と同じく3/4ほどと言われています。
カナリーシード
稗や粟、黍など日本で古くから栽培されている穀物類は、丸い形が特徴の種子なのですが、カナリーシードは細長い形をしています。
脂質の含有量が高めなので、やや敬遠されがちですが、稗や粟と比べて栄養価が高く、最近ではスーパーフードとして注目が集まりつつあり、海外セレブや健康志向の方々を中心にブームとなっています。
濃厚飼料
ひまわりの種・麻の実・カボチャの種などの植物の種子は、稗・粟・黍・カナリーシードに比べるとはるかに脂質が高く、小型・中型のインコやオウムが食べてしまうと肥満の原因となります。
最近では、オカメインコやボタンインコ専用のシード餌にも高脂肪種子が含まれていることが多いので、含有されている種子を確認してから餌を購入するようにしましょう。
また、お迎えしたインコやオウムを長生きさせるためには、無農薬の穀物を使用したシード餌を与えたいという飼い主さんも多いと思いますが、完全無農薬というものは存在しません。
農薬に関する詳しい情報をお知りになりたいという方は、農林水産省の「有機農薬物表示ガイドライン」を参考にシード餌を購入されるのが良いでしょう。
今回はインコの主食シードについて、一般的なシードの内容とシードを主食に与えることのメリットデメリット、また殻付き殻無しのメリットデメリットについてご説明させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
野生で暮らす穀食性のインコやオウムたちは、20種類以上の植物の種子を食べて暮らしていると言われています。その理由は、植物は季節によって実りの時期が異なるからです。
そのため、野生のインコやオウムたちは、季節ごとに食べることができる種子を学び、その時期が近付くとそこまで移動するのです。
ですが、人間の世界に住むインコやオウムたちは、季節ごとに大移動しなくても植物の種子「シード」を食べることができるため、餓死による心配はほとんど無いに等しいのですが、シードだけでは彼らの健康維持に必要な栄養素が補えるわけではないことを覚えておきましょう。